せん妄ガイドライン参考資料
国内初のがん患者におけるせん妄ガイドラインを読み解く②
-ガイドライン作成者による直接解説!!-
お待たせしました!「がん患者におけるせん妄ガイドライン」解説の第 2 弾、今回は CQ4~6についてです。各 CQ を担当された先生方に、推奨文作成に至るミニマムエッセンスをわかりやすくご解説いただきました。 では、順に読み進めてみて下さい。
CQ4:せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的としてヒドロキシジンを単独で投与することは推奨されるか?
<解説>
せん妄に認められる不眠や不穏の症状に対して、ヒドロキシジンは習慣的に用いられることが多い薬剤です。特にヒドロキシジンは注射薬が使用できることから、臨床現場で汎用されています。一方で、抗コリン作用を有し、せん妄の原因となるのではないかとの懸念から、使用が避けられる場合もあります。こうした背景より、本 CQ について検討しました。 システマティックレビューの結果、がん患者・非がん患者いずれにおいても、本 CQ に関する臨床研究は同定できませんでした。そうした中で、最初私たちは「抗ヒスタミン薬=抗コリン作用を有する=せん妄リスクを上昇させる可能性がある」と推奨文に記載しようと考えました。ただし、「ヒドロキシジンがせん妄の原因となりうる強さの抗コリン作用を有する」というエビデンスは、必ずしも明確ではありません。そのため、委員会の内外から、「エビデンスがないのに、せん妄リスクを上昇させる可能性があると記載したら、現場が混乱するのではないか?」と疑問の声が上がりました。
最終的に、ガイドライン作成委員会のコンセンサスとして、「第一選択薬として投与しないことを提案する」と結論づけましたが、本 CQ に関しては、まだまだ科学的根拠が必要であり、議論の余地があると考えられます。
担当:和田佐保先生、堂谷知香子先生
CQ5:せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的としてベンゾジアゼピン系薬を単独で投与することは推奨されるか?
<解説>
ベンゾジアピン系薬の使用はせん妄の発症要因になることが臨床的に知られています。その一方で、せん妄の治療目的として投与されることも臨床現場ではしばしば認められます。こうした背景より、本 CQ について検討しました。
システマティックレビューの結果、がん患者・非がん患者いずれにおいても、本 CQ に関する臨床研究は同定できませんでした。ただし、腫瘍科・内科病棟に入院したがん患者を対象として、1 ヶ月の間せん妄を同定するとともに、その期間に使用したベンゾジアゼピン系薬を調査し、ベンゾジアゼピン系薬によるせん妄出現リスクを検討した研究が 1 件存在しました。この結果として、ベンゾジアゼピン系薬の使用(ロラゼパム換算 2mg 以上)により、せん妄の出現リスクが有意に増加することが報告されていました(ハザード比 2.04)。 このように、せん妄を有するがん患者に対するベンゾジアゼピン系薬の単独使用は、その有用性を報告するエビデンスは乏しい一方で、むしろせん妄出現リスクを増加させる可能 性があることが示唆されます。
担当:足立浩祥先生、岡本禎晃先生
CQ6:せん妄を有するオピオイド投与中のがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的としてオピオイドを変更すること(スイッチング)は推奨されるか?
<解説>
せん妄の治療は原因除去が一番です。ただし、オピオイドの開始や増量に伴うせん妄で、オピオイドの中止や減量が難しい場合は、ほかのオピオイドに変更する(オピオイドスイッチング)という選択肢があり、これは薬理的には理にかなっていますが、エビデンスレベルは決して高くはありません。こうした背景より、本 CQ について検討しました。
本 CQ に関する臨床研究として、対照群のない前後比較研究が 6 件、後方視的チャートレビューが 1 件存在しました。エビデンスの質を評価した結果、症例数 20 例以下のケースシリーズであったため、エビデンスの高さを引き上げる要素は認められませんでした。モルヒネが原因の場合、モルヒネを他のオピオイドにスイッチングすることは弱く推奨されますが、どのオピオイドに変更するべきかについては、それを比較した研究がないため言及できませんでした。モルヒネ以外のオピオイドからのスイッチングについては、メサドンへのスイッチングに関する研究が 2 件あり、患者の個別性を考慮しながら検討可能な選択肢と考えられます。
担当:岡本禎晃先生、足立浩祥先生
なお、各 CQ に対する推奨文や推奨の強さ、エビデンスレベルなどにつきましては、「がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019 年版」(金原出版)をご覧下さい。
本稿が少しでもみなさまの日々の臨床にお役立ていただければ幸いです!