せん妄ガイドライン参考資料
国内初のがん患者におけるせん妄ガイドラインを読み解く③
-ガイドライン作成者による直接解説!!-
2019 年に刊行された、本邦初の「がん患者」におけるせん妄ガイドラインを紹介してきた このシリーズも、いよいよ本稿で最後となりました。今回は CQ7~9 について、各 CQ を担当された先生方に、ミニマムエッセンスをわかりやすく解説していただきました。で は、早速ご覧下さい!
CQ7:せん妄を有するがん患者に対して、せん妄症状の軽減を目的として推奨される非薬物療法にはどのようなものがあるか?
<解説>
せん妄に対する非薬物療法については、各病院や施設でさまざまな取り組みが慣習的に行われているかと思います。そこで、具体的にどのような介入が有効であるかを明らかにするため、本 CQ について検討しました。
システマティックレビューの結果、1 件の観察研究が該当しました。それによると、運動療法(1 回 20 分・週に 5 日間の歩行や関節可動域運動訓練など)を取り入れた場合、抗精神病薬の使用量が有意に少なかったという結果でしたが、せん妄の重症度については評価されていませんでした。そこで、対象を非がんの患者さんに広げて検索を行ったところ、メタアナリシスを含めた 5 件の研究が該当しました。複合的な非薬物療法によってせん妄の治療効果は示されないものの、予防として実施することでせん妄の発症を低下させるほか、転倒率を減少させることが報告されていました。実臨床では、見当識を保つこと、早期離床の促進、視聴覚の刺激や環境の調整といったことを意識し、ケアを工夫することが役立つと考えられます。多職種カンファレンスやご家族との話し合いの中で、目の前の患者さんに合った方法を検討していただければと思います。
担当:堂谷知香子先生、和田佐保先生
CQ8:がん患者の終末期のせん妄に対して、せん妄症状の軽減を目的として推奨されるアプローチにはどのようなものがあるか?
<解説>
がんの終末期には、重篤な身体状態や多様な合併症、さまざまな薬物の使用、予後が限定されていることなどの特徴がみられることから、今回われわれは、終末期に限定したせん妄の治療について、他の CQ とは独立して検討しました。したがって、一部の論文については、他の CQ で採用されたものと重複しています。また、本ガイドライン作成中の 2017 年に、がん患者さんの終末期のせん妄を対象として抗精神病薬の効果を検討した Agar らによる無作為化比較試験の結果が発表されました。本ガイドラインは 2016 年までの論文を検索対象としていたため、本来対象外ではあったのですが、研究デザインとしてもエビデンスレベルが高く、またインパクトの強い論文でもあったため、ガイドライン策定委員会で話し合い、この論文を対象に含めることとしました。
今回のガイドライン作成で明らかになったことの一つは、がん患者さんの終末期のせん妄を対象とした質の高い研究が少ないことです。それは、おそらく倫理的な問題もありますが、終末期のがん患者さんを一括りにして集団として扱うことの難しさもあると考えられます。
担当:竹内麻理先生、藤澤大介先生、角甲純先生
CQ9:せん妄を有するがん患者に対して、家族が望むケアにはどのようなものがあるか?
<解説>
実臨床では、せん妄を有するがん患者さんへの支援だけでなく、ご家族への支援にも注力し、悩みながら支援を提供していることが多いかと思います。そこで、本ガイドライン最後の CQ では、ご家族の視点に関するものを選びました。せん妄を有するがん患者さんのご家族は医療者にどのような支援を期待しているのか、についてシステマティックレビューを行ったところ、1 件の横断的観察研究(質的研究)が該当しました。
今回検討した論文では、医療者に提供を期待する患者ケアおよび家族ケアについて述べ られていましたが、調査対象が死亡前 2 週間の期間にせん妄を発症したがん患者さんのご家族(ご遺族)であったため、非終末期のがん患者さんへの適応については注意が必要です。また、サポートニーズの優先順位を規定できるものではありませんので、実際には個々の患者さんやご家族の状況、そしてニーズに合わせて支援を検討していく必要があります。ただし、その検討の際には今回の知見が参考になると考えられます。
担当:角甲純先生、竹内麻理先生、藤澤大介先生
なお、各 CQ に対する推奨文や推奨の強さ、エビデンスレベルなどについては、「がん患者におけるせん妄ガイドライン 2019 年版」(金原出版)をご覧下さい。
あらためて、本ガイドラインでは「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル」に則り、各CQ についてシステマティックレビューから得られた知見をもとに推奨文を作成し、推奨の強さを決定しました。ただし、どの CQ にも共通して言えることですが、本ガイドラインの推奨内容は、必ずしもすべての患者さんに当てはまるものではありません。個々の患者さんの状態や意向を評価し、それを介入内容に十分反映させることこそ、実臨床において最も大切ではないかと考えています。
最後に、とっておきの情報をお知らせしましょう。多くの医療現場において、せん妄の適切な介入(治療やケア)に関するニーズが年々高まっていることを受け、現在せん妄ガイドライン策定委員会ではメンバーを増員し、新たに 3 つの CQ を加えた全 12 の CQ について鋭意作業中です。2022 年 1 月の刊行を目指して、メンバーが一丸となって文献のレビューや推奨文の作成などを行っておりますので、大いにご期待下さい!!