コミュニケーションガイドライン参考資料
『がん医療における患者-医療従事者間のコミュニケーションガイドライン 2022年度版』とは?-エッセンスと本ガイドラインの活用方法について-
【本ガイドラインの目指すところ】
医療者が「私いつまで生きられるんでしょうか?」と尋ねられることや、患者側が「何を聞いていいかもわからない」「価値観とか、生活とか何から考えればいいのか」と疑問に思うことなど、患者-医療者間における対話において、どう対応すればよいかわからないこと(臨床疑問:CQ)がたくさんあります。
がん医療においては病名や病状、治癒しないことなど患者にとって衝撃的な情報を伝え、患者の心理状態に配慮しつつ、治療のリスク/ベネフィットと患者の価値観を踏まえて最善の意思決定を行う、という難しいコミュニケーションが必要です。
本ガイドラインでは、がん医療におけるコミュニケーションが患者にどのような影響を及ぼすかの最新の知見を総括した上で、推奨が作られています。 強く推奨されるコミュニケーションは対象となる全ての患者が活用できるようになることを目指し、弱く推奨されるコミュニケーションは状況をよく吟味した上で活用することが望まれます。
【主な推奨と、その活用方法例】
本ガイドラインでは、1.コミュニケーションを支援する介入を行うべきか[ⅰ]、2.コミュニケーションに関する教育を医療従事者に対して行うべきか、3.良いコミュニケーション技術はどのようなものか、の3つの重要臨床課題があり、この重要臨床課題に沿った7件のCQ(質問促進リスト、意思決定ガイド、医師へのコミュニケーション技術研修、医師以外のコミュニケーション技術研修、根治不能を伝える、がん治療中止を伝える、余命を伝える)が定められています。これらに対する推奨内容の一部と、期待される効果や活用事例をご紹介いたします。
患者-医療者間の対話全体を促進するコミュニケーションプログラムについては、
1.質問促進リスト[ⅱ]を使用することが推奨されます
【推奨レベル:強い,エビデンスの確実性:強い】
- 質問促進リストとは?
使用法も記載されているため、意思決定の面談前に患者に渡すだけで使用できます。
- 期待される効果
患者がリストを役立て、聞きたいことを質問できるようになります。
- 活用事例
個別に使用する場合
主治医から渡して使用することを伝えることはもちろん、主治医以外の医療者が、患者が「主治医に何を質問したら良いかわからない」という声を聞いた時に渡して、使用を促すことなどが考えられます。
組織的に使用する場合
がん相談支援センターなどで、特定の条件を満たす患者全例(進行がん、特定がん種、あるいは初診患者全例)に配布する方法が考えられます。医療者が手伝わなくても使うことができますので、がん患者さんが関心を持ちやすいホームページなどで一般に紹介することも有用と考えられます。
- 活用の工夫
院内スタッフに質問促進リストを知ってもらうための取り組み(院内のお知らせ、研修会で紹介するなど)、必要な時に印刷して利用しやすいよう電子カルテなどの院内イントラネットにアップロードしておく、などが考えられます。
2.意思決定ガイド(Decision Aids)を使用することが推奨されます
【推奨レベル:強い,エビデンスの確実性:強い】
- 意思決定ガイドとは?
患者が読むことで特定の医療行為の意思決定をしやすくするための方法(パンフレットなど)です。早期乳がん手術選択、早期肺がん治療選択について日本語版が開発されており、「患者さんやご家族のための意思決定ガイド」のサイト[ⅲ]で紹介されています。資料を患者に渡して読んでもらう、医療スタッフが一緒に見ながら話し合うことで共に意思決定支援することもできます。
- 期待される効果
患者に情報がより正確に伝わり、医療者と協働して意思決定できるようになります。
- 活用事例
早期乳がん手術、早期肺がんに対する治療決定支援の補足資料として使用することなどが考えられます。医師が説明の際に使用することはもちろん、がん看護面談で意思決定支援を行う際に活用することなどが考えられます。全国の幾つかの医療機関では実際に活用されています。
3.コミュニケーション技術研修(CST)を受けることが本ガイドラインでは推奨されます
【推奨レベル:弱い,エビデンスの確実性:中等度】
- コミュニケーション技術研修(CST)とは?
日本サイコオンコロジー学会が主催し、患者が納得した上で安心して治療法等の選択が出来るように患者-医師間のコミュニケーションの質の向上を目的とした技術研修会が行われています[ⅳ]。SHARE というコミュニケーション技法に基づき、1 時間の座学と 8 時間のロールプレイを 2 日間で受講します。2021 年からWEB 形式(ZOOM)、AYA 世代版(AYA-CST)も開催されています。 看護師対象の研修会は国立がん研究センターが公開がん看護研修「コミュニケーションスキル」研修を開催しています。NURSE というコミュニケーション技法に基づき 2 日間で研修します。
- 期待される効果
研修を受けた医師は共感的なコミュニケーションをとれるようになります。看護師は自身のストレス軽減に役立ちます。
- 活用事例
がん治療医や緩和ケア医として、また看護師としてコミュニケーションに関心を持つ方は日本サイコオンコロジー学会もしくは国立がん研究センターで研修を受講することができます。また日本サイコオンコロジー学会認定ファシリテーターがいればそれぞれの施設で個別に CST(SHARE)を開催できます。個人での参加だけでなく、施設のコミュニケーション研修の一環として活用することも考えられます。
【総論に含まれるトピック】
- 「高齢がん患者のコミュニケーション」には、認知症の意思決定支援の工夫や、治療方針決定の際の家族同席での影響など、高齢者医療における意思決定支援の現状と課題が含まれています。
- 「がんを患う子どもに真実を伝えること」には、(死が避けられない事実を)子供が知ることの効用や、どのようにその真実を扱えばよいのか等情報提供の注意点、告知後のサポートが含まれています。
- 「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」にはACPのエビデンスや実臨床でのACPについての総論が掲載されています。
【ぜひご活用ください】
ガイドラインとして強く推奨することが難しいものであっても、コミュニケーションに関心を持つこと、意識を持つことのきっかけとなるだけで、個々の患者の価値観や背景を知ろうとする動機づけになります。初期研修医の先生からがん診療に携わる幅広い医療従事者の方々まで、本ガイドラインの推奨をぜひご活用下さい。
担当:河野裕太(公立阿伎留医療センター 緩和治療科)
[i]
プログラム介入 | 推奨 | 期待される効果 |
質問促進リストを使用する | 強く推奨 | 患者がリストを役立て、聞きたいことを質問できる |
意思決定ガイド(Decision Aids)を使用する | 強く推奨 | 患者に情報がより正確に伝わり、医療者と協働して意思決定できるようになる |
[ⅱ]
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/dia_tre_diagnosis/question_prompt_sheet.html