Journal Club
Journal Club(Characteristics, symptom management and outcomes of 101 patients with COVID-19 referred for hospital palliative care.)
緩和ケアチームに紹介されたCOVID-19罹患者101名の特徴、症状マネジメント、転帰
仁木一順
Characteristics, symptom management and outcomes of 101 patients with COVID-19 referred for hospital palliative care.
Lovell N, Maddocks M, Etkind SN, Taylor K, Carey I, Vora V, Marsh L, Higginson IJ, Prentice W, Edmonds P, Sleeman KE. J Pain Symptom Manage. 2020 Apr 20. pii: S0885-3924(20)30211-6. doi:
10.1016/j.jpainsymman.2020.04.015. [Epub ahead of print]
【背景】
緩和ケアはCOVID-19への対応に不可欠であるが、現状ではデータが不足している。本研究では、緩和ケアチームに紹介されたCOVID-19罹患入院患者101名を対象とし、症状、マネジメント、治療への応答性、転帰が明らかにされた。
【結果】
対象は男性64名、年齢は82[72-89]※)歳、Elixhauser Comorbidity Indexは6[2-10]※)、Australian-modified Karnofsky Performance Statusは20[10-20]※)であり、エンドオブライフケア、症状マネジメント目的での紹介が多かった。入院から緩和ケアチームへの紹介までの日数は4[1-12]※)日であった。見られた症状は、呼吸困難(67名)、不穏(43名)、眠気(36名)、疼痛(23名)、せん妄(24名)の順に多かった。58 名には皮下投与が行われ、多く使用された薬剤(中央値~最大用量/日)は、オピオイド(モルヒネ10~30 mg、フェンタニル100~200 mcg、アルフェンタニル500~1000 mcg)およびミダゾラム(10~20mg)であった。皮下投与は、40名の患者に対し、“少なくとも部分的には有効”と評価されたが、13名の患者は評価前に死亡した。患者は2[1-4]※)日を緩和ケアチーム介入の下で過ごし、その間、患者、家族、医療従事者の間で3[2-5]※)回のコンタクトがとられていた。2020年3月30日時点で75名の患者が死亡し、13名が在宅やホスピスに退院し、13名が入院を継続していた。
【考察】
緩和ケアはCOVID-19への対応に必要であるため、緩和ケアチームは新たな働き方に急速に適応していかなければならない。呼吸困難や不穏が頻繁に見られた症状だったが、オピオイドとベンゾジアゼピンが奏功したため、輸液ポンプ、シリンジポンプの安定供給が必須である。国際的なデータを集積することで、COVID-19パンデミックに伴って生じた新たな疑問に対する解決策の早期発見が推進されるだろう。 ※)いずれも中央値[IQR]表記である。
【著者からのkey message】
・緩和ケアチームに紹介されたCOVID-19罹患者のほとんどが3日以内に死亡した。
・よく見られた症状は呼吸困難と不穏であり、ほとんどの症例で少量のオピオイドとベンゾジアゼピンを皮下投与することでコントロールされていた。
・急速に拡大する緩和ケアニーズを満たすためには、非専門家に対する学習機会を作ることが重要である。
【コメント】
終末期のCOVID-19罹患者には呼吸困難のみならず不穏も出やすいこと、ならびに、症状緩和には比較的低用量のモルヒネ(10 mg/日)とミタゾラムの併用皮下投与(10 mg/日)が有効そうであるという知見が示されたことは、本論文の最も注目すべき点であると考える。本研究対象者の全員ががん患者ではなかったが、呼吸困難に対するベンゾジアゼピン系薬とオピオイドの併用について参考となる先行研究がNaviganteらによって報告されている(Navigante AH et al, J Pain Symptom Manage. 2010;39(5):820-30.)。Naviganteらは、予測される生命予後が1週間以内である重度の呼吸困難を有するがん患者を対象とし、モルヒネ皮下注単独投与群とモルヒネ+ミタゾラム皮下注併用投与群を比較したところ、試験開始24時間の時点で呼吸困難が改善した患者割合は併用群の方が高かったと報告している。この報告も踏まえ、がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版(日本緩和医療学会編)では、「呼吸困難を有するがん患者に対するベンゾジアゼピン系薬とオピオイドの併用」についての推奨度・エビデンスレベルは、2C「弱い推奨、弱いエビデンス」と位置付けられている。したがって、本論文の知見とガイドラインを参考にすると、緩和ケアチームがCOVID-19罹患者に対して全くエビデンスがない状態で対応するという状況を回避できるのではないかと考える。
また、withコロナ、アフターコロナにおける緩和ケアチームの働き方を考える上で参考となる提案(ICTを活用したリモートケアの推進、非専門家へのガイダンスの実践)がなされていることも注目点である。本論文での緩和ケアチームの介入期間中央値は2日と短く、大半の患者が死亡したことから、死亡例の症状悪化が急速であることが想像できる。この介入期間の短さは、家族ケアの困難さに通じるものと考える。
薬剤の有効性評価に関しては、患者の主観的評価がなされていないことが研究上のリミテーションではあるが、致し方ないと思われる。