Journal Club
がんに伴う倦怠感への介入効果におけるアパシーの中心的な役割
A central role for apathy in the effectiveness of interventions for cancer-related fatigue
Tamara E Lacourt, Cobi J Heijnen , Ellen F Manzullo , Carmen Escalante
Psychooncology. 2020 Oct;29(10):1613-1619.
さいたま市立病院
根本 康
【目的】
がんに伴う倦怠感(cancer-related fatigue, CRF)はかなりの数のがん患者および生存者に影響を及ぼす。CRFの治療の推奨事項の多くはランダム化比較試験の結果に基づくが、このような結果に当てはまるのは、これらの試験に参加する資格があり、かつ参加意思のある患者に限られる。そこで総合がんセンターのCRFのクリニックを受診した患者を対象とした後ろ向き研究によりこの限界に対処することを目指した。目的は、(a) CRFに対する臨床医主導の介入の有効性を明らかにして、そのメディエーターを特定する、(b) CRFの軽減を目的とした患者主導による身体活動(PA)の頻度と有効性を記述し、このPAの決定因子を同定することである。
【方法】
初診および4~11週間のフォローアップ時にクリニックでの標準的な治療の一環として、213人の患者のデータ(患者が報告した身体症状および気分症状、臨床データ、臨床医が記録した薬物および行動の変化)を収集した。倦怠感の変化から臨床医主導の介入と患者主導のPAの効果を線形モデルで分析した。
【結果】
全ての臨床医主導の介入のうち、精神刺激薬の開始だけがさらなる調査を行うだけの十分な記録が行えた。また倦怠感の減少との関連を示し、アパシーの軽減が媒介していた。またPAも倦怠感の程度の軽減に関連した。診察後のPAの開始/増加は、診察時のアパシーの低下と関連した。
【結論】
これらの結果は、CRFを標的にした介入の有効性と開始において、患者のアパシーが大きな役割を果たしていることを示す。アパシーの軽減に焦点を当てた行動療法は、数多くのアパシーを有する患者のCRFの初期治療として考慮に入れるべきである。
【コメント】
CRFへの一般的な治療アプローチには教育、カウンセリング、薬物療法がある。薬物療法では精神刺激薬の他、うつ病が併存した場合に抗うつ薬も検討される。この他に心理社会的な介入、運動、ヨガ、理学療法、食事管理、睡眠療法もある。(Ebede CC et al., 2017) Mustianらによれば、薬物療法・心理療法・運動療法のうちで心理療法と運動療法ががん治療中および治療後のCRFを減らすのに有効だったというメタ分析を報告している。(Mustian KM .et al., 2017) また緩和ケア患者のがんに伴う倦怠感への薬物療法を検討した結果、推奨される薬物がなかったという報告もある。(Mücke M .et al., 2015)
今回の調査からはCRFの治療ではアパシーの軽減が重要で、精神刺激薬と行動療法がアパシー軽減に寄与する可能性が示された。精神刺激薬はメチルフェニデートやモダフィニルを用いた研究が多いが、日本ではいずれの薬剤もがんに伴う倦怠感への保険適応はなく、依存のリスクを考えると現実的な選択肢ではない。また行動療法に持ち込むためにそのような動機付けが有効であるか、具体的な検討も必要だろう。
本研究ではがんに伴う倦怠感の治療においてアパシーの軽減が治療の鍵となる可能性が示されたことは有意義で、アパシーに対する治療介入に関するさらなる研究が望まれる。