Journal Club
「終末期のがんの、統合失調症と非統合失調症患者でのオピオイド消費量の違い 国民集団データの二次分析」
Hao-Ying Lin et al.
Differences in the Opioid Consumption of Terminally Ill Schizophrenic and Nonschizophrenic Cancer Patients: Analysis of Secondary National Population Data
Journal of pain and symptom management 2020:59: 1232–1238
慶應義塾大学病院
坂本麻味 金子健
【背景】
終末期がんの統合失調症患者の痛覚鈍麻があるのか、疼痛管理に差があるのかは明らかになっていない。
【 目的 】
統合失調症のがん患者とそれ以外のがん患者間で終末期にオピオイドの投与量に違いがあるかを検討する
【方法】
人口ベースの後ろ向きコホート研究であり、台湾の国立健康保険研究データベースを使用した。20歳以上、2000年から2012年の間に、大腸がん、肝臓がん、肺がん、乳がん、口腔がん、前立腺がんのいずれかひとつの診断を受けた患者を対象とした。除外基準は、重複がん患者、生存者、交通事故歴のある患者、死亡1か月前以内に入院治療を受けなかった患者とした。そこから統合失調症の患者群(統合失調症群)と、統合失調症でない患者群(非統合失調症群)を、年齢、性別、がん種、死亡年数が一致するよう、人数比1:4で抽出した。
オピオイドの使用率、累積投与量、終末期における1日の平均投与量を調査した。
【結果】
死亡前1か月間のオピオイド使用率は、統合失調症群で69.6%と、非統合失調症群の84.8%と比較して低かった。(OR = 0.40, 95% CI = 0.34-0.48)死亡前3か月間のオピオイド使用率も、統合失調症群で74%であり、非統合失調症群の88%と比較して低かった。(OR = 0.40, 95% CI = 0.33-0.48)さらに、オピオイド累積投与量は、死亡前1か月間で統合失調症群2,407mg、非統合失調症群3,694mg(β+SE = -1259 ± 287,P < 0.05)、死亡前3か月間で統合失調症群4490mgと非統合失調症群6389mg(β+SE = -1797 ± 496,P < 0.05)と、統合失調症群で少なかった。
【考察】
医療従事者は終末期がんの統合失調症患者を、統合失調症ではない無い患者と同じようには治療してないことが示された。
メンタルヘルスケアに関わらない、多くの医療従事者は精神疾患患者の行動が理解できず、患者の訴えにどのように対処すればいいのかわからない。
病態生理学的には、脳機能では神経伝達を促進するN-メチル-D-アスパラギン酸の調節不全や、血漿中のβ-エンドルフィンの濃度が高いことにより、統合失調症患者は痛覚の感受性が低い可能性があると言われている。統合失調症患者の痛みの表現を医療従事者が汲み取れないのか、統合失調症の病態生理が原因なのか、いずれにしても、統合失調症患者へのオピオイドの使用量が低いことにつながった。
【結論】
終末期がんの統合失調症患者は、統合失調症ではない患者よりもオピオイドの使用量が少なかった。統合失調症患者の疼痛症状への医療者の注意不足か、疼痛評価ツールの不足か、正しく疼痛評価がされていない可能性がある。より正確な疼痛スケールシステムを策定し、終末期の統合失調症患者への治療をトレーニングしなければならない。
【コメント】
終末期がんの統合失調症患者を担当する際には、統合失調症ではない患者とは疼痛の表現や痛みの感受性が違う可能性があるということを考慮し、痛みを訴えなくても、動作等(顔をしかめている、部位をさすっている、おさえているなど)を注意深く観察しアセスメントをしなければならないと感じた。その情報を集積して正確な疼痛スケールシステムを策定し、普段メンタルヘルスケアに関わらない医療者も正しく判断ができるようになると、患者にも医療者にもメリットがあると感じた。また、オピオイドの副作用に関しても、正しく聞き取れない可能性もあると考え、患者からの申告だけでなく、あらゆる観点から情報を収集しアセスメントを行うために、医師や看護師などの他職種とともにチーム一丸となり対応する必要があると感じた。