Journal Club
がん患者における持続的なオピオイド使用、乱用、および中毒の予測
Predicting Persistent Opioid Use, Abuse, and Toxicity Among Cancer Survivors
Lucas K Vitzthum, Paul Riviere, Paige Sheridan, Vinit Nalawade, Rishi Deka, Timothy Furnish, Loren K Mell, Brent Rose, Mark Wallace, and James D Murphy
J Natl Cancer Inst. 2020 Jul 1;112(7):720-727.
さいたま市立病院
根本 康
【背景】
がん性疼痛の管理においてオピオイドは重要な役割を果たす一方で、現在のオピオイドの蔓延はその持続的使用や乱用の懸念を引き起こしている。我々はオピオイド関連の有害なアウトカムに至るリスクを把握できるようなデータ駆動型ツールが腫瘍学において不足している。臨床的なリスク因子を特定し、オピオイドの持続的使用や乱用の危険性がある患者を特定するのに役立つリスクスコアを作成することをこのプロジェクトの目的とした。
【方法】
2000年から2015年の間に診断された退役軍人のがん生存者106,732人の集団における治療後の持続的なオピオイド使用の割合やオピオイド乱用または依存症の診断、オピオイド中毒による入院を調べた。多変量ロジスティック回帰モデルによってオピオイド関連の有害なアウトカムに関連した患者、がん、および治療の危険因子を特定した。 予測リスクモデルはLeast Absolute Shrinkage and Selection Operator (LASSO)を用いて検証した。
【結果】
退役軍人のがん生存者のうち、持続的なオピオイド使用の割合は8.3%(95%CI=8.1-8.4%)、乱用・依存の割合は2.9%(95%CI= 2.8-3.0%)、オピオイドに関連した入院の割合は2.1%(95%CI=2.0-2.2%)だった。多変量解析で患者因子、人口統計学的因子、がんおよび治療因子が持続的なオピオイドの使用に至るリスクと関連した。持続的なオピオイド使用(AUC=0.85)、将来のオピオイド乱用または依存症の診断(AUC =0.87)、およびオピオイド乱用または中毒を理由とした入院(AUC =0.78)といったオピオイド関連の有害転帰のリスクがある個人を特定するのに、予測モデルで高いレベルの判別ができた。
【結論】
この研究ではがん生存者におけるオピオイド関連の有害な転帰の予測可能性が示された。さらなる検証により、がん患者へのオピオイドの処方する際に個別化されたリスク階層化アプローチが管理の指針となりうる。
【コメント】
がん性疼痛の緩和にオピオイドの積極的な使用は推奨されるが、乱用や依存の問題があればこそ慎重な管理が求められる。従来の手法としてアドヒアランスモニタリング、薬物スクリーニング、代替的な疼痛管理戦略、慎重なオピオイドの使用、疼痛の専門医への紹介(Judith A et al., 2016)などがある。
この研究で示されたリスク評価ツールはこれまでの手法とは異なり、個別化されたリスク階層化アプローチから得られたものである。過去に同様のツールはあったが、がん患者で検証した初めてのツールだと筆者は述べている。このツールはWeb上で公開されている。年齢、就労歴、精神疾患の既往、がんの種類などの15項目を入力すると「持続的なオピオイド使用」、「オピオイドの乱用」、「オピオイドが原因の入院」の予測確率が表示される。(http://www.canceropioidrisk.org/) この予測モデルはオピオイドの処方する際の心強いツールとなりうるが、退役軍人に基づいたデータを元にして集団に偏りがあることから、ツールの信頼性・妥当性の検証は必要である。