Journal Club
末期がん患者における持続的深い鎮静と生存期間との関連性
Association between continuous deep sedation and survival time in terminally ill cancer patients
So-Jung Park , Hee Kyung Ahn , Hong Yup Ahn , Kyu-Tae Han , In Cheol Hwang
Support Care Cancer. 2021 Jan;29(1):525-531.
さいたま市立病院
根本 康
【目的】
Continuous deep sedation(CDS)と生存期間との関連性の評価することが本研究の目的である。この研究ではCDS導入開始時を基にして正確に測定し、条件に合致した非CDS群から選び出した人に重みづけした非CDS群の尤度を使って得た生存期間を用いた。
- 注 この研究におけるCDS群の定義は、鎮静薬を導入してRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)で− 4から− 5に相当する昏迷ないし昏睡までに意識レベルを低下させ、死亡まで薬剤投与によってその意識レベルを維持した患者を指す
【方法】
2012年1月から2016年12月に緩和ケア専用病棟に入院した末期がん患者に関するデータを集めた電子データベースを使って後ろ向きコホート研究を行った。非CDS群(n=663)の中でCDS導入に至る可能性が最も高い人々を同定するため、まずCDS導入をアウトカムとしたCox比例ハザードモデルを用いた上で、CDS導入に至る可能性が最も高い人を高いレベルで判別するようなカットオフを明らかにするためにROC解析を用いた。CDS群(n=311)と重みづけした非CDS群(n=311)を比較するために重回帰分析を行った。なお生存期間の開始をCDS導入時点とし、CDS群は実測値、非CDS群は推定値である。
【結果】
登録者の約32%がCDSを導入し、最も一般的な適応はせん妄または焦燥(58.2%)、難治性疼痛(28.9%)、呼吸困難(10.6%)だった。鎮静には主にジアゼパムを使用した。最終的に重回帰分析でCDS群の方が非CDS群よりも生存期間が長かった(Exp(β)、1.41;P < 0.001)。CDS群で生存期間が長かったのは女性、腎障害、および低値のC反応性蛋白(CRP)やフェリチンの患者だった。
【結論】
CDSは生存期間の短縮とは関連せず、むしろ末期がん患者の生存期間の延長と関連した。今回の知見を検証するために他の集団でのさらなる研究が必要である。
【コメント】
終末期のがん患者への鎮静の適応やその開始のタイミングは非常に悩ましい。本調査ではCDSによって生存期間が延長するという結果を得たが、Cochrane Databaseによるレビューでは、苦痛緩和のための鎮静が死を早めることはないという知見は得られたが、質の低い研究から得られたもので注意して解釈すべきだとしている。(Elaine M Beller et al., 2015) またCDSの定義や生存期間の算出法が研究ごとで異なり、CDSを導入しなかった群を対照群にした研究がないなど、一定の結論が出ていない。
前述のCochrane Databaseによるレビューでは、患者のQOLまたは症状コントロールの観点から苦痛緩和のための鎮静の有効性の十分な証拠がないとしている。 「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2018年版」では、鎮静は相応性、医療者の意思、患者・家族の意図、チームによる判断の4つを満たす場合に倫理的妥当性があるとしている。
CDSと生存期間の関連性の見解が分かれるが、少なくとも深い鎮静によって生存期間が確実に短縮するわけではない。そこで生存期間という視点以外に本人の身体的苦痛や家族の精神的苦痛などについて多くの人と検討した上でCDSの適応を判断すべきなのかもしれない。