Journal Club
Patient-Reported Cognitive Impairment Among Women With Early Breast Cancer Randomly Assigned to Endocrine Therapy Alone Versus Chemoendocrine Therapy: Results From TAILORx
Lynne I Wagner et al.
Journal of Clinical Oncology 2020:38: 1875–1886
慶應義塾大学病院
嶋 亮太 金子 健
早期乳がん患者の、化学療法+ホルモン療法vsホルモン療法単独での認知障害の比較結果
【背景】
がんそのもの、あるいはがん治療に伴う認知機能障害(cancer-related cognitive impairment;CRCI)はがん治療の最も恐れられていた副作用の一つである。現時点で有効な評価方法や治療は確立されていないが、がんそのものによる肉体的・精神的影響によって治療前からみられるもの、化学療法や手術、内分泌療法などの治療に伴ってみられるものがあると考えられている。化学療法に伴うものとして16~75%の患者でみられたという報告があり、「ケモブレイン」とよばれている。TAILORx試験は、米国国立がん研究所(NCI)から依頼されECOG-ACRINがん研究グループが実施した過去最大規模の乳がん治療試験である。米国およびその他5カ国の実施医療機関で早期乳がんの患者を登録した。TAILORx試験のサブ解析において、化学療法+ホルモン療法vsホルモン療法単独での早期乳がん患者から報告された認知障害を比較している。
【目的】
CRCIは補助化学療法中によくみられ、継続する場合がある。TAILORx試験において認知障害を前向きに評価した。
【方法】
TAILORx試験に登録された患者のうち、21遺伝子再発スコアが11〜25の患者を化学内分泌療法群または内分泌療法単独群にランダムに割り当てた。最初の内分泌療法として、ほとんどはアロマターゼ阻害剤(58%)が投与され、次に多かったのはタモキシフェン(37%)であった。化学療法+ホルモン療法にランダムに割り当てられた患者の中で、一般的な化学療法レジメンは、ドセタキセル+シクロホスファミド療法(70%)またはアントラサイクリンベース療法(20%)であった。認知機能障害は37項目のFunctional Assessment of Cancer Therapy-Cognitive Function(FACT-Cog)質問票を使用し、552人の評価可能な患者においてベースライン、3、6、12、24、36ヵ月を評価した。主要評価項目である20項目のPerceived Cognitive Impairment(PCI)スケールはFACT-Cogに含まれ、臨床的に意味のある変化は事前に定義し、線形回帰を使用して、ベースラインのPCIスコア、治療、その他の要因に関するPCIスコアをモデル化した。
【結果】
FACT-Cog PCIスコアは、両群におけるベースラインと比較して3、6、12、24、36ヵ月で有意に低く、認知障害が大きかった。PCIスコアの変化は、内分泌療法単独群に比べて化学内分泌療法群において3ヵ月、6ヵ月で大きかったが、12ヵ月以降は差がなかった。閉経状態によるPCIスコアの治療群間の違いはなかった。
【結論】
3ヵ月と6ヵ月では化学内分泌療法の方がCRCIは有意に多かったが、時間の経過とともに収束し、12ヵ月以降では有意差は見られなかった。化学内分泌療法は内分泌療法単独に比べて早期に認知障害を引き起こしたが持続的ではなく、化学内分泌療法の認知障害の経過が内分泌療法単独を投与された群へ収束することは、患者と臨床医に安心感を与える結果であった。また、CRCIの臨床管理の必要性、およびメカニズムを解明し、効果的な介入を特定するための追加の研究の必要性を強調しており、内分泌療法単独を受けている女性で観察された長期CRCIは、5年以上の治療を受けているこの多数のがん患者の間で継続的な症状モニタリングの重要性を臨床医に警告する必要があるとしている。
【コメント】
本文献を通してCRCIについて学ぶきっかけとなった。CRCIは症状が軽微で、非健忘症状として現れることが多いがゆえに、家族にも医療者にも気づかれにくく、二次的な不安や抑うつなどにつながる可能性がある。
医療従事者は、治療中のがん患者に対して、上記のような認知症状が出るかもしれないという認識を持ちつつ、患者やその家族に対して症状があれば相談して欲しい旨を伝え、さらに認知機能障害の背景を丁寧に鑑別することが重要だと感じた。
また、薬剤師としてがん患者への初回指導から継続的なモニタリングを行う際には、CRCIを考慮した上での指導の必要であると感じた。特に化学療法+ホルモン療法の患者へは、早期での認知障害の出現を念頭に、内服薬の管理等が治療前と変わらずにできるかどうかを適宜モニタリングする必要があると考えた。ホルモン療法単独の患者へも、長期では認知障害が出現する可能性があることを理解し、外来での治療継続ができるよう、看護師とも情報共有の上、連携を図る必要がある。また、家族のサポート等有無の確認も必要になると感じた。