Journal Club
PRISMによるAYA世代のがん患者のレジリエンス向上
Promoting Resilience in Adolescents and Young Adults With Cancer: Results From the PRISM Randomized Controlled Trial
Abby R. Rosenberg, Miranda C Bradford, Elizabeth McCauley et al.
Cancer 124(19) 3909-3917 2018
慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室
阿部晃子
【背景・目的】
AYA世代のがん患者は心理社会的なアウトカムが不良となるリスクを抱えている。しかし、AYA世代の患者に従来の認知行動療法を行うことは、拒否や脱落も多く困難である。本研究では、PRISM(Promoting Resilience in Stress Management)の実施により心理社会的アウトカムが改善するかランダム化比較試験にて調査した。
【目的】
12歳~25歳のがん患者に、通常ケア(usual care: UC)に加えてPRISMを実施すると、UCと比べて、介入6か月後の心理社会的アウトカムが改善するか調査した。
【方法】
2015年1月~2016年10月の間に、シアトル小児病院にてがんと診断された12歳~25歳の患者を対象とし、UCに加えてPRISMを実施する群とUCのみの群に1:1に割り付けた。PRISMの介入方法は、主に、①ストレスマネジメント(マインドフルネス)、②現実的で到達可能な目標設定とその達成に向けてのスキル、③認知の再構築、④困難な状況に対する意味づけ、から構成される。評価項目としては、レジリエンスについてはCDRISC-10、QOLはPedsQL、Psychological distressはKessler-6、不安と抑うつについてはHADSを用いた。
【結果】
92人が登録、無作為化され、ベースライン調査を完了した(PRISM群48人、UC群44人)。73%は12~17歳で、62%は白血病またはリンパ腫であった。医学的合併症または死亡により、最終的に6か月の調査を完了できたのはPRISM群では38人、UC群では36人だった。6か月の時点で、PRISM群ではレジリエンスの改善(+3.0ポイント; 95%信頼区間[CI] 0.5-5.4; p=0.02)、がん特有のQOLの向上(+9.6; 95%CI 2.6-16.7; p=0.01)、精神的苦痛の軽減(-2.1; 95%CI -4.1 to -0.2; p=0.03)と関連したが、一般的なQOLの向上とは関連しなかった(+7.2; 95%CI -0.8 to 15.2; p=0.08)。2人のPRISM参加者(6%)と8人のUC参加者(21%)がうつ病の基準を満たした(OR 0.09; 95%CI 0.01-1.09; p=0.06)。
【結語】
PRISM群ではUC群と比較して、心理社会的転機の有意な改善がみられた。AYA世代のがん患者に対する短時間のスキルベースの介入が有用である可能性が示唆された。
【コメント】
海外や日本でも近年、学校において生徒のストレス対処力を高め、レジリエンスを向上させるために、認知行動療法をベースにした介入や授業プログラムが行われている。このような教育現場の取り組みも、本研究が計画された背景にあると考えられる。本研究ではPRISMの6か月時点の有効性が示唆されたが、効果の持続期間や、介入のうちどの成分が有効なのかは評価できていない。また、他施設、他文化での有効性や普及の可能性などについても、更なる研究が必要と考えられる。