Journal Club
Depression and anxiety in long-term survivors 5 and 10 years after cancer diagnosis (がん診断後5年および10年、長期がんサバイバーのうつ病と不安)
Heide Götze ¹, Michael Friedrich ², Sabine Taubenheim ³, Andreas Dietz ⁴, Florian Lordick ⁵, Anja Mehnert ²
Support Care Cancer. 2020 Jan;28(1):211-220.
立川病院
水島仁
【背景】
がんサバイバーがうつ病や不安障害を有すると言われており、長期間にわたるがんサバイバーが実際にうつ病や不安障害を有するのか、性別・年齢・そして寄与因子などについても研究した。
【方法】
ドイツにおいて1002名の様々ながん種のサバイバーを、診断確定5年後(コホート1)、10年後(コホート2)を追跡した。うつ病はPHQ-9(こころとからだの質問票)で、不安障害をGAD-7(general anxiety disorder 7)というスケールを用いてそれぞれ評価した。 一般人口からランダムに抽出したコントロールと年齢と性別をマッチした。
【方法】
人口ベースの後ろ向きコホート研究であり、台湾の国立健康保険研究データベースを使用した。20歳以上、2000年から2012年の間に、大腸がん、肝臓がん、肺がん、乳がん、口腔がん、前立腺がんのいずれかひとつの診断を受けた患者を対象とした。除外基準は、重複がん患者、生存者、交通事故歴のある患者、死亡1か月前以内に入院治療を受けなかった患者とした。そこから統合失調症の患者群(統合失調症群)と、統合失調症でない患者群(非統合失調症群)を、年齢、性別、がん種、死亡年数が一致するよう、人数比1:4で抽出した。
オピオイドの使用率、累積投与量、終末期における1日の平均投与量を調査した。
【結果】
中等度から重度のうつ病と不安障害はそれぞれがんサバイバーの17%と9%に認められた。診断確定5年後と10年後では有意差は認めなかった (p = 0.232)。 どちらのコホートでも男性より女性に多く、うつ病も不安障害を認めた (p < 0.001)。年齢では高齢者はうつ病、不安障害ともに有意に少なかった (p < 0.001)。60歳未満のがんサバイバーではうつ病も不安障害を一般人口よりも多く認めた (p < 0.001)。変数では、経済的困難 (Beta = 0.16, p < 0.001)、 グローバルQOL (Beta = – 0.21, p < 0.001) 、そして認知機能 (Beta = – 0.30, p < 0.001)がうつ病と不安障害と強い相関関係にあった。
【結論】
がんサバイバーにとってうつ病や不安障害発症予防には、身体的症状や精神症状の治療だけでなく、社会的サポートや専門家によるカウンセリングも重要である。がん治療後に伴う認知機能低下に対する丁寧なアセスメントは、精神症状との鑑別に極めて重要である。特に、若い患者(働いている世代)や女性患者はうつ病や不安障害を呈しやすく、十分な注意を要する。
【コメント】
がんサバイバーが様々な不安や抑うつ症状を抱えながら日々過ごしているということは想像に難くないだろう。比較的若年者、そして女性が多くうつ症状や不安を有しているというのは女性特有の臓器(乳腺、子宮、卵巣)を治療で喪失することが関与していると想像できる。がんに対する身体的治療やフォローアップだけでなく、メンタル面のサポートをサイコオンコロジストが担い、同時に社会的な面も含めた総合的な支援が必要であると考えられる。