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がんの診断を受ける患者のコミュニケーションの好み:がんの病期による違い
Patients’ communication preferences for receiving a cancer diagnosis: Differences depending on cancer stage
Soo-Hyun Kim , Jong-Heun Kim , Eun-Jung Shim , Bong-Jin Hahm , Eun-Seung Yu
Psychooncology. 2020 Oct;29(10):1540-1548.
さいたま市立病院
根本 康
【目的】
研究目的は、がんの診断を受ける韓国人患者のコミュニケーションの好みを明らかにするとともに、がんの再発・転移の有無による違いを探ることである。
【方法】
韓国の5つのがんセンターからの計312人の患者に韓国語版の“Measure of Patients’ Preferences questionnaire“(MPP-K)、“Mini-Mental Adjustment to Cancer scale“、“Insomnia Severity Index“、“Hospital Anxiety and Depression Scale“を行った。
【結果】
MPP-Kの結果に探索的因子分析を行い、再発・転移のない患者では”付加的な情報”、”医療情報”、”情緒的支援”、”支持的な場の設定 “の4つの因子が示された。再発・転移のある患者では”医療情報と説明”、”情緒的支援”、”支持的な場の設定”、”付加的な情報”、”家族への情報提供”の5つの因子が示された。また階層的重回帰分析を行って次のような結果を得た。再発・転移のないグループでは前向きな態度が4つの因子全てを好む有意な予測因子だった。低いレベルの不安が”付加的な情報”を好む予測因子となった。先行する高いレベルの不安を示した患者は”支持的な場の設定”を好んだ。 再発・転移のあるグループで、高レベルの認知回避を示した患者は”医療情報”、”付加的な情報”、”情緒的支援”を受けることを好んだ。
【結論】
韓国のがん患者が悪い知らせを受け取る際のコミュニケーションの好みは再発・転移の有無で異なった。特に再発・転移がある患者は医療情報の明確な説明を受け、医師が患者の家族に診断と予後を伝えることを好んだ。それゆえ医師は病状を伝える際に患者の病状や心理的特性を考慮に入れるべきである。
【コメント】
悪い知らせを受けた際の日本人を対象にしたコミュニュケーションの好みに関する報告(Fujimori et al., 2017)がある。”悪い知らせの伝達方法”、”安心感や情緒的なサポート”、”付加的情報”、”場の設定”の4つの要素に、”人口統計学的な特性”、”医学的な特性”、”心理社会的な特性”を加えてコミュニュケーションの嗜好性を評価したところ、性別・年齢・学歴・就労状況などの患者背景によって嗜好が異なっていた。そこで個々の患者に応じた伝え方の工夫を行う必要性を述べている。
悪い知らせの際のコミュニケーションの好みは国や文化でも異なり(Saha S et al., 1999、Tucker CM et al., 2003)、日本人とアメリカ人の間でコミュニケーションの好みがあることが示された。(Fujimori et al., 2007) 韓国人を対象にした本研究の結果を解釈する際に文化的背景の違いを考慮すべきである。がんの再発・転移の有無により悪い知らせを行う際の心理的な影響に違いがあることを明らかになった点は興味深く、臨床医は病期以外に再発・転移の有無から受ける心理的な影響を踏まえて悪い知らせの伝え方を工夫する必要がある。