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Fear of cancer recurrence and disease progression in long-term prostate cancer survivors after radical prostatectomy: A longitudinal study
Valentin H. Meissner MD,Lisa Olze MD,Stefan Schiele MSc,Donna P. Ankerst PhD,Matthias Jahnen MD,Jürgen E. Gschwend MD,Kathleen Herkommer MD, MBA,Andreas Dinkel DSc
First published: 06 August 2021
Cancer Volume 127, Issue 22, p4287-4295.
https://doi.org/10.1002/cncr.33836
立川病院
水島 仁
【序論】
Fear of cancer recurrence (FCR:再発不安、再発恐怖)とは、「がん再発に対する恐怖、心配、懸念」と定義され、治療後の患者のQOLや精神面に多大な影響を与えることが知られている。このようにがんサバイバーにとって重大な問題ではあるが、まだ対応が遅れている分野であり、臨床研究においても先行研究の数も非常に限られている。前立腺がんはアメリカとヨーロッパにおいて男性では2番目に多く診断されるがんであり、本研究は、前立腺がん長期生存者においてFCRの有病率や予測因子についてアセスメントを行ったものである。
【方法】
ドイツのGerman Familial Prostate Cancer Databaseには36000人以上の患者とその親族が登録されている。ここには1993年以降ドイツ中の泌尿器科クリニックから紹介された家族歴のない新規の前立腺がん患者が登録され、患者情報が記録されていく。本研究では、前立腺摘除術を受け、Fear of Progression Questionnaire -Short Form (FoP-Q-SF)の質問紙に回答した者が組み入れられた。FoP-Q-SFは5段階のリッカート尺度を採用し、得点が高いほど恐怖の程度が高いように設定されている。総得点34点を超えた場合、High FCRとされている。回答時期は、前立腺摘除術を受けた平均7年後の時点をT1、その9年後をT2とした。対象者数は最終的にはT2の回答を得た2417名となった。階層的多重ロジスティック回帰分析を行い、FCRの予測因子について検討した。
【結果】
初回の回答時の平均年齢は69.5歳(SD 5.9歳)で、患者の6.5%はT1時に、8.4%が9年後のT2時にHigh FCRだった。多変量解析の結果、9年後のFCRの予測因子は教育水準の低さ(オッズ比[OR] 4.35、95%信頼区間[CI] 2.33-8.33)、前立腺摘除術後年数 (OR 1.10; 95% CI 1.03-1.18)、生化学的再発 (OR, 1.67; 95%CI, 1.02-2.72)、現在術後補助療法なし(OR, 2.38; 95% CI, 1.19-4.76), FCR (OR, 10.75; 95% CI, 6.18-18.72), そして不安感 (OR, 1.35; 95% CI, 1.06-1.72)だった。
【結論】
FCRは前立腺がんサバイバーにとっては、診断や治療後、長年経過しても大きな重荷となっている。FCRは患者のQOLや精神面に影響を与えるため、医療従事者はFCRについて常に注意し、適切な精神面のケアや治療を提案・提供できるように心がけるべきである。
【コメント】
Fear of Cancer Reference (FCR)は、竹内ら(2018)によると、「がんが同じ部位あるいは他の体の部位に再び現れること、または進行することに対する恐怖」とされており、これまでは再発不安と訳されることが多かったが、最近では元の英語を反映した「再発恐怖」と訳すことが増えてきている。Hinzら(2015)が発表したものではFCRの頻度16.7%、Götzeら(2019)の研究では診断5年後には19%、10年後には13%のFCRと報告している。FCRは乳がん、肺がん、卵巣がんでは前立腺がんより多いと考えられており、がん種によってもFCR発症の影響は異なると考えられるだろう。また、本研究では低い教育水準がFCRの予測因子のひとつだったが、これは病気への正しい理解が乏しく不安や恐怖を呼び込んでいる可能性があると著者は述べている。その一方で、Simardら(2013)によれば、低年齢もFCR発症の危険因子のひとつであるとしているが、本研究で回答した前立腺がんサバイバーは平均70歳台だったこともあり、結婚や挙児、キャリア設計などについての不安とは縁が遠い世代だったからかもしれないとも著者は述べている。本研究を参考にしつつ、がん種や患者の社会的背景なども勘案しながらFCRの可能性を常に念頭に入れる必要があるだろう。そして精神科医や心理職らと迅速かつ緊密な連携が肝要であると考えられる。
【参考文献】
竹内恵美,小川祐子,原沙彩,他:乳がんサバイバーにおける再発不安の構成要因の検討―再発の心配及び対処行動の観点から―. 行動医学研究 22:9‒17,2016
Hinz A, Mehnert A, Ernst J, et al. Fear of progression in patients 6 months after cancer rehabilitation—a validation study of the Fear of Progression Questionnaire FoP-Q-12. Support Care Cancer. 2015;23:1579-1587.
Götze H, Taubenheim S, Dietz A, Lordick F, Mehnert-Theuerkauf et al. Fear of cancer recurrence across the survivorship trajectory: results from a survey of adult long-term cancer survivors. Psychooncology. 2019;28:2033-2041.
Simard S, Thewes B, Humphris G, et al. Fear of cancer recurrence in adult cancer survivors: a systematic review of quantitative studies. J Cancer Surviv. 2013;7:300-322.