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がんサバイバーにおけるがんスティグマと離職との関連性
Sungkeun Shim, Danbee Kang, Ka Ryeong Bae, Woo Yong Lee, Seok Jin Nam, Tae Sung Sohn, Byong Chang Jeong, Dong Hyun Sinn, Sun Seog Kweon, Young Mog Shim, Juhee Cho. Association between cancer stigma and job loss among cancer survivors. Psychooncology. 2021 Aug;30(8):1347-1355. doi: 10.1002/pon.5690. Epub 2021 Apr 15.
東北大学病院 精神科
五十嵐 江美
【序論】
早期発見・早期治療の進歩で、がんの生存率は飛躍的に向上した。一方、がんサバイバーの約半数は就労年齢でがんと診断されており、がんサバイバーの就労は重要な課題となっている。メタ解析によると、がんサバイバーの離職リスクは一般集団の1.4倍であり、再就職率も低いことが示された。離職には年齢や性別など様々な要因が関連しているが、心理社会的支援の欠如や働きにくい職場環境は、離職率に影響を与える重要な要因であると考えられている。
本研究が実施された韓国においては、がんサバイバーのがん診断後5年以内の離職率は30.5%であり、他の先進国に比べ離職率が非常に高い。この一因としてがんに対するスティグマが関連している可能性が質的研究で示唆されており、本研究では、がんサバイバーにおけるスティグマと離職の関連について定量的に評価された。
【方法】
2017年10月から2018年3月にかけて、韓国のソウルとファスンの2施設で実施した対面式の横断調査のデータを用いた。調査対象者は19~65歳のがんサバイバーで、がん診断時に就労中であった人、かつ治癒を目的としたがん治療を完遂し、調査時点で再発の兆候がない人とした。スティグマは、(a)回復の不可能性、(b)ステレオタイプ、(c)差別の3領域で12項目からなる検証済みの質問票を用いて評価した。多変量ロジスティック回帰分析を行い、年齢、性別、配偶者の有無、教育歴、職種、居住地域、がん部位、がんステージ、併存疾患、診断からの時間、自己効力感を調整し、スティグマと離職との関連性について評価した。
【結果】
433名のがんサバイバーのうち、24.0%が罹患後に職を失い、20.7%が職場で差別を経験した。また、21.7%が「医学が発達しても、がんを治すのは難しい」と回答した。回復の不可能性やステレオタイプに関するスティグマを持つサバイバーは、そうでないサバイバーに比べ、それぞれ3.10倍(95%信頼区間(以下、CI): 1.76-5.44)、2.10倍(95%CI: 1.20- 3.67)の確率で離職リスクが上昇した。加えて、職場での差別経験があるサバイバーは、そうでないサバイバーに比べ、離職リスクが1.98倍(95%CI:1.05-3.74)高かった。
【結論】
がんに対するスティグマを持つサバイバーは、スティグマを持たないサバイバーと比較して離職する可能性が高く、職場での差別を経験したサバイバーは、差別を経験しなかったサバイバーと比較して離職する可能性が高かった。
【コメント】
がんの治療成績の向上にも関わらず、がんサバイバーの就労には様々な障壁が存在することが知られる。本邦における先行研究では、がん診断後10年以内に約21%の患者が失業を経験し、女性(OR = 2.58, 95% CI 1.48-4.50)・非正規雇用者(OR = 2.62, 95% CI 1.72-3.99)でその割合が高いことが示唆された[1]。2023年3月28日に閣議決定された第4期がん対策推進基本計画においてもサバイバーシップ支援の一分野として就労支援が含まれた。
本研究は本邦と文化的背景が比較的類似すると推測される韓国で実施された、がんサバイバーにおけるがんスティグマと離職に関する横断研究である。がんスティグマと離職の関連が示され、がん診断後にも就労を継続するために、患者自身への包括的アプローチとがんスティグマについての社会全体への啓発活動・法整備が重要であると論じられている。
本邦においてがんスティグマに関する先行研究は少ないものの61.2%のサバイバーがスティグマを経験したと報告されており[2]、韓国のがんサバイバーを対象とした全国調査では30%以上のサバイバーがスティグマを経験したと報告されている[3]。単純比較はできないものの、本邦においてもがんサバイバーと離職との関係性に関する調査研究が望まれる。
【参考文献】
1. Tsuchiya, M., et al., Impact of gender and employment type on job loss among cancer survivors. Jpn J Clin Oncol, 2020. 50(7): 766-771.
2. Fujisawa, D., et al., Prevalence and associated factors of perceived cancer-related stigma in Japanese cancer survivors. Jpn J Clin Oncol, 2020. 50(11): 1325-1329.
3. Cho, J., et al., Association between cancer stigma and depression among cancer survivors: a nationwide survey in Korea. Psychooncology, 2013. 22(10): 2372-2378.