コラム
書評「がん診療における精神症状・心理状態・発達障害ハンドブック」
慶應義塾大学 藤澤大介
現代的で、実用的な本である。
序章「がん患者・家族と接するときの基本」で、本書の要点が概観された後、ただちに、せん妄の評価とアプローチに紙面が割かれている。病院におけるがん患者さんの精神ケアで、最も頻度が高く、最も急いで結果を求められるのはせん妄であろう。本書は、まさにそのような現場のニーズを意識した順に構成され、紙面配分されているように見える。
せん妄の後は、適応障害・うつ病、認知症、不眠、といった“精神医学的”テーマの解説が続く。どの章も過不足なく実践的な内容である。サイコオンコロジーの古典的教科書によく記述されていた “心理”に関する記述(否認・怒りなど)も扱われているが、まず精神医学的アプローチが優先されているところが、本書が実用性をよく表している。
精神症状と身体状況との連関が扱われている点も見事である。不安は呼吸困難や身体愁訴と結びつけて章立てされている。疼痛に関する心理的問題とケミカル・コーピングがまとめて章立てされている。さらに、発達障害への評価とアプローチに紙面が割かれている点は現代的である。
7つのケース・スタディーでは、「うまくいかなかったパターン」と「うまくいったパターン」の2つのシナリオが用意され、臨床で陥りがちなピットフォールと、その上手な交わし方が描写されている。それらのシナリオを追う中で、精神・心理的評価のみならず、コミュニケーションやチーム医療のあるべき姿が学べるようになっている。
駆け出しの臨床家にとっては、本書を拾い読みすることで、短時間で一通りの対応ができるようになるだろう。経験を積んだ臨床家にとっては、本書をじっくりと読むことによって、新しい視点で知識を整理しなおし、それをチーム医療に役立てられることができるだろう。
今一度繰り返す。現代的で、実用的な良書である。
がん診療における
精神症状・心理状態・ 発達障害ハンドブック
小山敦子/編集,吉田健史/協力
■ 定価(本体 3,800円+税) ■ B6変型判
■ 215頁 ■ ISBN 978-4-7581-1880-4
■ 発行:羊土社