Journal Club
Journal Club(Factors Associated With Mental Health Outcomes Among Health Care Workers Exposed to Coronavirus Disease 2019)
コロナウイルス感染症に曝露した医療従事者のメンタルヘルスアウトカムの関連要因
広島大学大学院医系科学研究科 老年・がん看護開発学
角甲純
Factors Associated With Mental Health Outcomes Among Health Care Workers Exposed to Coronavirus Disease 2019
Jianbo Lai, Simeng Ma, Ying Wang, et al.
JAMA Netw Open. 2020;3(3):e203976. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.3976
【重要性】
新型コロナウイルス感染症に罹患した患者の治療にあたる医療従事者は、心理的ストレスを受ける可能性がある。
【目的】
中国で新型コロナウイルス感染症に罹患した患者の治療を行っている医療従事者のメンタルヘルスアウトカムの重症度と、その関連要因について調査した。
【方法】
本研究は、2020年1月29日~2020年2月3日までの期間に、地域別に層別化した2段階のクラスターサンプリングにより実施した横断調査である。対象は、中国の34施設(武漢の病院20施設、武漢以外の湖北省の病院7施設、湖北省以外の病院7施設)における、新型コロナウイルス感染症の発熱クリニックまたは病棟に勤務する医療従事者であり、メンタルヘルスアウトカムとして抑うつ(PHQ-9)、不安(GAD-7)、不眠(ISI)、苦痛(IES-R)を評価した。なお、医療従事者については、各病院から無作為に1臨床部門を選択し、その部門に勤務する全ての医師と看護師とした。メンタルヘルスアウトカムとの関連要因の検討については、多重ロジスティック回帰分析を行った。なお、本研究については、米国世論調査協会(AAPOR)のガイドラインに沿って行った。
【結果】
対象施設に勤務する医療従事者1830名中1257名(68.7%)から協力が得られた。参加者のうち、813名(64.7%)は26~40歳で、964名(76.7%)は女性だった。看護師は764名(60.8%)、医師は493名(39.2%)であり、武漢の医療従事者は760名(60.5%)で、フロントラインの医療従事者は522名(41.5%)だった。調査の結果、かなり多くの参加者が、抑うつ(634名[50.4%])、不安(560名[44.6%])、不眠(427名[34.0%])、苦痛(899名[71.5%])を報告していた。看護師、女性、フロントラインの医療従事者、武漢の医療従事者は、これら全ての症状の重症度が、他の医療従事者よりも高かった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、武漢以外の医療従事者は苦痛症状を経験するリスクが低かった(オッズ比0.62;95%信頼区間0.43~0.88;p=.008)。また、新型コロナウイルス感染症に罹患した患者に直接診療や治療、ケアを提供するフロントラインの医療従事者は、抑うつ(オッズ比1.52;95%信頼区間1.11~2.09;p=.01)、不安(オッズ比1.57;95%信頼区間1.22~2.22;p<.001)、不眠(オッズ比2.97;95%信頼区間1.92~4.60;p<.001)、苦痛(オッズ比1.60;95%信頼区間1.25~2.04;p<.001)症状のリスクが高かった。
【結論】
武漢をはじめ、中国各地の新型コロナウイルス感染症に罹患する患者の発熱クリニックや病棟に勤務する医療従事者を対象に調査を行い、特に看護師、女性、武漢の医療従事者やフロントラインの医療従事者は、心理的負担を抱えているとことが明らかとなった。
【コメント】
本研究では、中国における、新型コロナウイルス感染症に罹患した患者の治療にあたる医師や看護師の心理的負担が大きいことが示された。一方で、対象となった医療従事者が基礎疾患として抱える精神疾患の有無や心理的ストレスの大きさについては報告されていないので、解釈には注意が必要である。しかし、日本における新型コロナウイルス感染症に罹患した患者のケアにあたる医療者の声を聴くと、本研究の結果を支持する側面もあるように思われる。2003年にSARSが発生した際の長期フォローアップでは、23%の医療者が中等度以上の抑うつを経験していると報告した研究結果もある。新型コロナウイルス感染症に罹患した患者と同様に、医療者への支援も必要である。