Journal Club
Journal Club(Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection)
重症SARS-CoV-2感染症における神経学的特徴
Neurologic Features in Severe SARS-CoV-2 Infection
枷場美穂
New England Journal of Medicine. 2020 Apr 15pp.1-2. Correspondence
Covid-19による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のために、2020年3月3日から4月3日までの期間、フランスのストラスブールにある2つの集中治療室(ICU)に入院した64例中58例の連続した患者を観察し、それらに認められた神経学的特徴を報告する(麻痺性神経筋遮断があった患者、あるいは神経学的検査を実施する前に死亡した6名の患者は除外)。対象となった患者はSARS-CoV-2 感染により、脳症、顕著な興奮とせん妄、皮質脊髄路徴候を呈していた。詳細を下記に示す。
58 人の患者全員において、鼻咽頭検体の逆転写酵素ポリメラーゼ鎖反応(RT-PCR)で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)が陽性であった。患者の年齢中央値は63歳、簡易急性生理学スコアIIの中央値は52であった。58人中7人には一過性虚血発作、部分てんかん、軽度の認知障害を含む神経学的障害の既往歴があった。
ICUへの入院時(治療前)に58例中8例(14%)に、鎮静と神経筋遮断薬を中止した場合は39例(67%)に、神経学的所見が認められた。鎮静にミダゾラムが使用された患者は50名(86%)、プロポフォール27名(47%)、スフェンタニル58名(100%)であった。神経筋遮断薬を中止した場合、40人の患者(69%)に興奮が認められ、このうち26人の患者は、ICUのConfusion Assessment Method(CAM)によるとせん妄と診断された。39人の患者(67%)には、腱反射の亢進、足首のクローヌス、両側の足底伸筋反射を伴うびまん性皮質脊髄路徴候が認められた。本稿執筆時点で退院した患者のうち、45人中15人(33%)に、不注意、見当識障害、遂行機能障害が認められた。
原因不明の脳症的特徴が認められた13人の患者には脳の磁気共鳴画像法(MRI)が実施された(その画像は、NEJM.orgに掲載されている補足付録として入手可能)。このうち8人の患者では軟膜腔の増大が認められ、灌流画像検査を受けた11人の患者全員で両側性前頭側頭の灌流低下が認められた。無症候性であった2人の患者では、拡散強調画像においてそれぞれ急性および亜急性の虚血性脳卒中を認めた。
脳波検査を受けた8人の患者には、非特異的な変化のみが検出された;8人のうち1人の患者では、脳症と一致するびまん性の両側前頭の徐波が認められた。7人の患者から得られた脳脊髄液(CSF)検査では、細胞は認められなかった;2人の患者では、乏クローン帯が血清中に同一の電気泳動パターンで存在し、1人の患者ではタンパク質およびIgGレベルが上昇していた。なお、髄液検査で得られたサンプルのRT-PCR は、7 人の患者全員においてSARS-CoV-2 陰性となった。
現在のところ、重篤な疾患に関連した脳症やサイトカイン、あるいは薬物の効果や休薬によるもの、SARS-CoV-2感染に特異的なものを特定するためのデータが不足している。
【コメント】
本邦では山梨大学が、新型コロナウイルスが肺炎だけでなく髄膜炎を起こすことを、世界に先駆けて報告した(論文:SARS-CoV-2に関連した髄膜炎/脳炎の最初の症例)。その後日本感染症学会のホームページにおいて募集した緊急症例においても髄膜炎症状を呈した患者の髄液SARS-CoV-2-PCRが陰性であったと報告されている。本稿でも指摘されているように、SARS-CoV-2への感染を契機として髄膜炎や脳症を来しているとすれば、その機序は何かについて等、さらなる検討が必要である。