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がん患者の興奮を伴う終末期せん妄に対する神経遮断薬の効果に関する検証(単施設,二重盲検並行群間無作為化試験)
Neuroleptic strategies for terminal agitation in patients with cancer and delirium at an acute palliative care unit: a single-centre, double-blind, parallel-group, randomised trial.
David Hui, De La Rosa A, Wilson A, et al. Lancet Oncol. 2020 Jul; 21(7): 989-998.
慶應義塾大学医学部 緩和ケアセンター
竹内麻理
【背景】
せん妄に対して神経遮断薬は第一選択薬としてよく使用されているが,いくつかの臨床試験やシステマティックレビューではせん妄に対する神経遮断薬の使用は有益性がないことが示唆されている.一方で興奮を伴う難治性のせん妄に対しての無作為化試験は報告がなく,終末期の興奮を伴うせん妄に対する神経遮断薬の効果について検証することを目的に本研究が実施された.
【方法】
米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの急性期緩和ケア病棟入院中の18歳以上の進行がん患者のうち,RASSスコア1以上であり,せん妄に対して低用量のハロペリドールでは効果不十分であった人を対象とした.対象者を無作為に三群に割り付け,①漸増群:ハロペリドールを4時間毎に2mgずつ増量,②変更群:クロルプロマジン25mgを4時間毎に投与,③併用群:ハロペリドール1mg+クロルプロマジン12.5mgを併用し4時間毎に投与した.レスキュー投与は,予定投与量と同じ投与量を開始時に投与し,その後は必要に応じて1時間ごとに投与した.0~24時間後のRASSスコアの変化を三群間で比較した.
【結果】
45人の患者が対象となった.三群ともに,投与30分以内にRASSスコアが著明に低下した.群間で有意な差はなかったが,ハロペリドールからクロルプロマジンに変更した群の患者では,身の置き所のなさが少なく,レスキュー投与や増量を必要とする割合が低かった.もっとも多い有害事象は血圧低下であった.薬剤投与に関連した死亡は認めなかった.
【結論】
神経遮断薬による3つの戦略が,興奮を伴うせん妄の症状を軽減できる可能性が示唆された.研究の限界としては,単施設での研究であり,サンプルサイズが小さいこと,プラセボ群との比較がないことが挙げられる.
【コメント】
終末期の身の置き所のなさを伴うせん妄は難治性であることが多く,対処に苦労することも少なくない.終末期の患者を対象とした無作為化比較試験を実施することが難しい中,ハロペリドールやクロルプロマジン,またはその併用により効果が得られることが示された有意義な研究である.また神経遮断薬のローテーションによる効果についても示唆された.ただし,筆者らが述べているようにプラセボ群との比較がないため,本研究で観察されたRASSスコアの低下が,薬理学的効果によるものなのか,あるいはせん妄の変動性によるものや非薬理学的要素によるものなのかは考察できず,今後の報告が待たれるところである.また,せん妄症状の改善について,RASSスコアの変動,つまり鎮静の深さで評価している点にも留意が必要である.