遺族ケアガイドライン参考資料
国内初の遺族ケアガイドラインを読み解く②(CQ2)
ここでは、「がんなどの身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族」に対象を絞り、死別後の遺族のうつ病や複雑性悲嘆に対して薬物療法が推奨できるかを検討しました。死別や喪失後のうつ病に対する薬物療法については、各病院や施設でさまざまな薬物療法やケアが実践されていますが、悲しみが長く続く「複雑性悲嘆」については、遺族外来など専門的な診療体制がある施設を除くと、対応経験のある医療者が限られているかもしれません。
臨床疑問2-a(CQ2-a):
「がんなどの身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験するうつ病に対して、向精神薬(こうせいしんやく)を投与することは推奨されるか?
<解説>
遺族の抑うつ症状に対する向精神薬(精神機能に影響を与える薬物の総称、抗うつ薬も含まれる)の有効性を検証した研究は数が少なく、無作為化比較試験が2件、比較群のない前後比較試験が3件の論文のみでした。うつ病の評価には、DSM-Ⅳ(フォー)、DSM-Ⅳ-TR、ハミルトンうつ病評価尺度が用いられました。なお、どの研究も、病気で亡くなった人の遺族だけを対象にしたものではなく、他の原因で亡くなった場合も含まれていました。無作為化比較試験の2件のうち1件(使用薬剤はノルトリプチリン)は有効であったものの、もう1件(使用薬剤はシタロプラム<国内未承認>)では効果が示されませんでした。比較群のない前後比較試験では3件(使用薬剤は各々エスシタロプラム、ノルトリプチリン、ブプロピオン<国内未承認>)とも向精神薬は有効と示されました。いずれの研究も、エビデンスの確実性が高いものが少なく、シタロプラムやブプロピオンなど国内未承認薬や、ノルトリプチリンのような現在国内での使用例が少ない薬剤が用いられました。しかし、国内でもうつ病に用いられるエスシタロプラムなど、有効性を示す結果が複数あることから、抗うつ薬を投与することを提案する(推奨の強さは2(弱い)、エビデンスの確実性はC(弱い))、と結論付けられました(推奨の強さは4段階:強く推奨・弱く提案・弱くしないことを提案、強くしないことを推奨。エビデンスの確実性も4段階:A(強)~D(とても弱い))。
臨床疑問2-b(CQ2-b):
「がんなどの身体疾患によって重要他者を失った(病因死)18歳以上の成人遺族が経験する複雑性悲嘆に対して、向精神薬を投与することは推奨されるか?」
<解説>
複雑性悲嘆(後述)に対する向精神薬の有効性を検証した研究は、無作為化比較試験が1件、比較群のない前後比較試験が2件で、これらの3件は、臨床疑問2-aで取り上げられている抑うつ症状に関する試験の中に含まれていました。無作為化比較試験(使用薬剤はシタロプラム<国内未承認>)では効果は示されず、比較群のない前後比較試験では1件(使用薬剤はノルトリプチリン)で有効、1件(使用薬剤はブプロピオン<国内未承認>)で有効性が示されませんでした。
研究の件数自体が少なく、無作為化比較試験で有効性が示されなかったことから、抗うつ薬等の向精神薬を投与しないことを提案する(推奨の強さは2(弱い)、エビデンスの確実性はC(弱い))と結論付けています(推奨の強さは4段階:強く推奨・弱く提案・弱くしないことを提案、強くしないことを推奨。エビデンスの確実性も4段階:A(強)~D(とても弱い))。
このガイドラインは、『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に基づいて作成されています。各医療上の疑問について、信頼できる文献を幅広く調べて検討し、その結果をもとに、どのような治療や対応が望ましいかをまとめています。また、それぞれの推奨がどの程度強く支持されているかも評価しています。どの臨床疑問にも共通して言えることですが、本ガイドラインの推奨内容は、必ずしもすべての患者さんに当てはまるものではありません。個々の患者さんの状態を評価し、意向やニーズを尋ね、それを支援内容に十分反映させることが、実臨床においては大切だと考えられます。
文責:相木佐代/釆野優



