遺族ケアガイドライン参考資料
国内初の遺族ケアガイドラインを読み解く④(第Ⅲ章 精神心理的苦痛が強い遺族への治療介入)
本章では、主に公認心理師・臨床心理士や精神科医、心療内科医、精神看護専門看護師などのメンタルヘルスの専門職を対象に、専門的な介入が必要な病態である複雑性悲嘆の概念とその評価、治療について解説しています。以下に、その概要を示します。
1.複雑性悲嘆は、どのように診断・評価すればいいのでしょうか。
これまで、悲嘆は疾患として扱われず、多くは自然に和らぐ「正常な死別反応」であり、「その一部はうつ病と診断される」という位置づけでした。それが近年、うつ病とも他疾患とも異なる「故人への思慕(分離不安)を中核とした独立した疾患」としてとらえられるようになりました。現在では「故人への思慕(しぼ)(分離不安)を中核とした独立した疾患」として捉(とら)えられています。
具体的には、①6か月以上の期間を経ても強い症状が継続していること、②個人への強い思慕やとらわれなどの特有の症状が極めて強いこと、③日常生活に支障をきたしていること、の3点が重視されます。近年、この病態を精神疾患の1つとして診断基準に位置づけるかどうかの議論が積み重ねられてきましたが、その後、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版:2013)では「持続性複雑死別障害(persistent(パーシステント) complex(コンプレックス) bereavement(ビリーヴメント) disorder(ディスオーダー))」、ICD-11(疾病及び関連保健問題の国際統計分類:2019)では「遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder)」という名称で、国際的な診断基準に組み込まれました。2022年、DSM-5がDSM-5-TRに改訂された際、「持続性複雑死別障害」は、「遷延性(せんえんせい)悲嘆症」という呼称(こしょう)に変更され、名称が統一されましたが、現在も、DSM-5とICDの診断基準の項目に相違があることが問題視されています。両者の最大の違いは症状の持続期間で、DSM-5-TRは死別後12ヶ月以上(子どもの場合は6ヶ月)、ICD-11は6ヶ月以上としています。
複雑性悲嘆の評価方法には、抑うつが併存している可能性がある場合は、抑うつの評価尺度を用いるほか、悲嘆の尺度としては、19項目からなる複雑性悲嘆質問票(Inventory(インヴェントリー) of(オブ) Complicated(コンプリケイティッド) Grief(グリーフ); ICG)が多く用いられます。また、スクリーニングツールとして用いられる簡易版悲嘆尺度(Brief(ブリーフ) Grief(グリーフ) Questionnaire(クエスチョネア); BGQ)は5項目で、日本語版の妥当性/信頼性も確認されています。また、遷延性悲嘆障害評価尺度(Prolonged(プロローングド) Grief(グリーフ) Disorder(ディスオーダー); PG-13)は、遷延性悲嘆症の診断にも使用されます。
2.メンタルヘルス(こころのケア)の専門家につなぐべき人はどんな人ですか?
強い悲嘆反応を呈する遺族には、死別後の適応を意識したケアの提供が必要です。強い悲嘆反応のリスク要因は、①個人的背景、②治療に関連した要因、③死に関連した要因、の3つに分類されます。①個人的背景には、近親者(特に配偶者や子供)との死別であることや生前の患者への強い依存、経済的困窮(こんきゅう)、社会的孤立などがあります。②治療に関連した要因には、治療への後悔や医療者への不満、介護者のサポートの不足、侵襲性(しんしゅうせい)の高い(身体的負担の大きい)治療の有無などが含まれます。③死に関連した要因には、予測よりも早い死や突然死などがあります。これらのリスク要因は、患者の生存中から医療者側の対応で工夫が可能なものと難しいものがあります。これらのリスク要因が、遺族の死別後の適応に影響することを念頭に、必要な場合には、早めにメンタルヘルスの専門家とつなげることを考慮します。
3.身体症状がある遺族への関わりは、どうすればよいですか。
死別が強いストレスとなり、食欲の低下や倦怠感など身体症状が強く出る場合や、心疾患(しんしっかん)などの身体疾患のリスクが高まる場合があります。①器質的(きしつてき)・機能的な身体的異常がないかを確認し、②心身症の病態がないか、③うつ病や複雑性悲嘆などの精神疾患の可能性がないかを評価することが大切です。遺族の心身症の例としては、気管支喘息(きかんしぜんそく)、機能性ディスペプシア、本態性(ほんたいせい)高血圧症、過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)、片頭痛、慢性蕁麻疹(じんましん)などさまざまです。医療者による支持的な関わりを継続しつつ、患者が日常生活に支障をきたすほど症状が強いようであれば、身体症状に関連した診療科の医師やメンタルヘルスの専門家につなげるようにしましょう。また本章では、悲嘆反応が強い遺族を見つける心理社会的なスクリーニング方法(ACT(アクト)-UP(アップ))も紹介しています。
4.受診や服薬(ふくやく)が必要にも関わらず、それを拒(こば)む場合、どうすればよいですか?
まずは、遺族本人が受診や服薬を拒む背景は何なのかを確認するようにします。特に、死別後、精神症状や身体症状が強く持続する遺族には、信頼関係に配慮しながら、根気強く受診や服薬を勧めることが大切です。その際には、遺族の価値観にも配慮しながら、「困っていること」に焦点を当て、医療者として気がかりであることを伝えるようにするとよいでしょう。拒否する原因が、経済的負担や副作用を心配している場合もあります。また、患者が亡くなった病院への受診や通院は、遺族にとって心理的な負担になることもあるため、別の病院の情報を提供できるように準備をしておくことも大切です。メンタルヘルスの窓口は、一般に敷居(しきい)が高く受診しづらいと思われがちです。まずは、「死別後もいつでも医療者へ相談してよい」と、患者が生存されているうちから伝え、医療者は遺族とのつながりを保つことが大切です。
5.自死遺族には、特別なケアが必要ですか?
自死は、家族や友人だけでなく、職場や学校、地域社会にも大きな影響を与えることから、遺族ケアの対象は、親族だけでなく、婚約者や内縁者、友人、同僚にも対象範囲を広げて考えていく必要があります。自死遺族には、他の遺族同様うつ病などの精神的な問題や死亡リスクの増加に加えて社会的に孤立しやすいなどの負の影響が強く、専門的な支援への高いニーズがあります。特に自死遺族同士のピアのつながりや、長期的に支援が提供されることで、自死関連行動の減少や、QOL(生活の質)が改善する可能性が報告されています。継続的に支援を提供できるように、情報提供のための冊子やウェブサイト、地域での取り組みなどのリソースがあることを知っておくことが大切です。
文責:相木佐代/釆野優



